デザインが好みの議論になる組織の「デザインの処方箋」
- SATSUKI DESIGN OFFICE

- 1 日前
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新規事業やリブランディングの現場で、デザインレビューが進まない原因として多いのが「好みの議論」です。「なんか違う」「もっとオシャレに」「この色が好きじゃない」など、判断が感想ベースになり、結論が出ない。会議が長引く。手戻りが増える。でも、結論から言うと好みが悪いわけではありません。問題は、判断基準(判断軸)が未設定なだけです。
この記事では、デザインが好みの議論になってしまう組織に向けて、判断基準の作り方(デザインの処方箋)と、レビュー会議を短くする進め方をテンプレ化して紹介します。
キーワード:デザインレビュー/好みの議論/判断基準/トンマナ/合意形成
なぜ好みの議論になるのか
好みの議論が起きる時、現場ではだいたい次のどちらかが欠けています。
1)目的が曖昧「このデザインで何を達成したいか」が決まっていないと、人は好き嫌いで判断せざるを得ません。デザインは本来、目的に向けた設計です。目的が曖昧なままレビューすると、会議は感想大会になります。
2)判断軸がない判断軸がない状態では、各人が自分の経験や美意識を軸にします。結果として、「Aさんの好み」と「Bさんの好み」がぶつかり、収束しません。
つまり、好みの議論は“人が悪い”のではなく、設計が不足しているサインです。
判断軸は3つで足りる(目的・対象・行動)
判断軸は、実は多くいりません。基本は3つで十分です。この3つが揃うと、「良い/悪い」を目的に照らして判断できるようになります。
1)目的(何を達成するか)
例:問い合わせを増やす/信頼を高める/比較検討で選ばれる/採用で応募を増やす など
2)対象(誰に向けるか)
例:初めて知る人/比較検討している人/既に関心が高い人 など(「30代女性」など属性より、“状態”で定義するとズレにくいです)
3)行動(何をしてほしいか)
例:問い合わせ/資料請求/予約/購入/来店/応募/フォロー など
この3点が決まれば、「このデザインは目的に近づけるか?」という問いでレビューできるようになります。
「良いデザイン」の定義を文章にする方法
「良いデザイン」とは何か。これを組織内で合意できていないと、好みの議論は何度でも復活します。おすすめは、定義を“短い文章”にしてしまうことです。会議のたびに読み返せる、判断の物差しになります。使えるテンプレはこれです。
良いデザインとは、(対象)が(目的)に向けて(行動)しやすくなる表現である。そのために、(トーン/印象)は(例:信頼・安心・上質・スピード)を優先する。
例:
良いデザインとは、初めて知る人が「この会社なら相談できそう」と感じ、問い合わせにつながる表現である。そのために、信頼・安心が伝わる情報設計とトーンを優先する。
この文章があるだけで、レビューの議論は「好き嫌い」から「定義に合っているか」に移ります。
レビューの進め方テンプレ(デザインの処方箋)
次に、会議が短くなるレビュー手順です。ポイントは、順番を固定すること。レビューが荒れるのは、同時に色々話すからです。
おすすめの流れ(30〜45分想定)
1)目的・対象・行動を確認(3分)「今日はこのデザインで何を達成する?」を最初に読む
2)判断基準(定義文)を読み上げる(1分)会議冒頭で全員が同じ物差しを持つ
3)提案側が“意図”を説明(5分)・この案で何を優先したか・どこが工夫ポイントか・捨てた要素は何か
4)フィードバックは「目的に照らして」出す(15分)感想ではなく、観点を固定します例:・対象は理解できるか・行動が取りやすいか・信頼が伝わるか・情報の優先順位は適切か
5)決定事項・保留事項を分ける(5分)「今日決めるもの」「次回まで検証するもの」を分離
6)次アクション(修正点)を3つまでに絞る(3分)修正点が10個あると、結局ブレます。3つに絞るのがコツです。
この手順にすると、レビューは合意形成の場になります。
NGワード集(“なんか違う”など)→言い換え
好みの議論を生むのは、言葉の曖昧さです。よくあるNGワードを「判断できる言葉」に言い換えるだけで、会議の質が変わります。
NG:なんか違う→ どこが違う?「目的/対象/行動」のどれに合っていない?
例:対象が想定と違う、行動導線が弱い、信頼が伝わらない、など
NG:もっとオシャレに→ どんな印象にしたい?
(上質、洗練、親しみ、力強い、誠実、など)参考イメージを1〜2個提示
NG:イケてない→ 何が課題?
(情報の優先順位、余白、文字サイズ、色のコントラスト、写真の品質など)“要素”に分解して指摘
NG:この色が好きじゃない→ 目的に照らして適切か?
(信頼/安心/若さ/高級感など)色の役割で判断する
NG:もう少し分かりやすく→ 何が分からない?
(誰向けか、何ができるか、次に何をすればいいか)「分かりやすさの欠けている箇所」を特定する
デザイナー側が用意すべき材料(比較案、意図、想定反応)
好みの議論を減らすには、デザイナー側の準備も必要です。次の3点があると、レビューが目的ベースになりやすいです。
1)比較案(A/B)1案だけだと、好みの議論が起きやすい。「何を優先するか」が比較で見えると、判断が進みます。
2)意図(何を優先したか)・対象にとっての読みやすさを優先・信頼感を優先・スピード感を優先など、優先順位を言語化する
3)想定反応(ユーザーの見え方)「初見の人はここで安心する」「ここで迷う」「ここで次の行動に移る」ユーザー視点で説明できると、議論が目的に戻ります。

もしあなたの組織で、デザインレビューが好みの議論になって進まない状態が続いているなら、まずは現状のレビュー資料(またはデザイン案)をお問い合わせの際に1つ見せてください。
判断軸テンプレートはこちらからダウンロードできます。使い方は、レビュー開始の最初に30秒で読み上げること、フィードバックは「目的/対象/行動」のどれに基づくかを必ず添えること、修正指示は最大3つに絞る(増えるとブレます)ことです!お試しください。


