阪急うめだ本店にてアトリプシー/ART+3C出店決定!!
- SATSUKI DESIGN OFFICE

- 13 時間前
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ささやかな身支度展+
「ひとり」から「みんな」のデザインへ。
身支度という言葉には、どこか穏やかな響きがあります。朝、服を選ぶこと。髪を整えること。鏡の前で、自分を確かめること。外に出るために、心と身体を少しずつ社会へ向けていくこと。
その“当たり前”の身支度が、ある日突然むずかしくなることがあります。病気や治療、障害、加齢、育児、介護、環境の変化。人はそれぞれの事情のなかで、「できていたこと」ができなくなったり、「ふつう」とされる形に合わせることがしんどくなったりします。
私自身は乳がんで全摘していているため、手術後はバンザイすることができませんでした。だから、飛行機に乗った時にスーツケースを上にあげることができない、どうしよう?とか。まいにちの洗濯が干せないとか、手が回らないから洋服がうまく着れないとか、様々な部分に小さな小さな難しさが生まれました。
私は、そうした場面で生まれる困りごとや願いを、単なる個人の問題として終わらせたくないと思ってアトリプシー/ART+3Cという活動をしています。むしろ、ひとりの切実さの中にこそ、みんなにひらかれていくデザインの入口があるのではないか。今回の「ささやかな身支度展+」に、そんな思いで参加します。
インクルーシブデザインとは何か
近年、「インクルーシブデザイン」という言葉を見聞きする機会が増えてきました。マイクロソフトは、インクルーシブデザインを、人間の多様性を前提にしながら、これまで設計からこぼれ落ちてきた人たちの視点から学び、よりよい体験を生み出す方法論として位置づけています。W3Cもまた、アクセシビリティ、ユーザビリティ、インクルージョンは重なり合うものであり、あわせて考えることが有効だと示しています。
つまり、インクルーシブデザインは「特別な人のための特別な工夫」ではありません。最初は誰か一人の困りごとに向き合うところから始まっても、その視点をていねいに掘り下げることで、結果として多くの人にとって使いやすく、参加しやすく、気持ちよく関われるものへ育っていく。そんな考え方です。
マイクロソフトの公式資料でも、排除が起こる地点を発見し、それを新しい発想の起点に変えることが、インクルーシブデザインの重要な姿勢として示されています。
いま世界で、なぜインクルーシブデザインが重要なのか
この流れは、単なる理想論ではなく、社会の本流に入りつつあります。たとえばEUでは、European Accessibility Act が2025年6月28日から適用され、電子商取引や銀行、交通、通信など、日々の暮らしにかかわる製品やサービスのアクセシビリティがより強く求められるようになりました。アクセシビリティは“あればよい配慮”ではなく、社会の前提条件として整えられる方向に進んでいます。
この変化は、デジタル領域だけの話ではありません。美術館やデザイン教育の現場でも、包摂性は主要なテーマになっています。ロンドンのV&Aでは2025年から2026年にかけて「Design and Disability」展が開催され、障害のある人、ろう者、ニューロダイバージェントの人々が、デザイン史と現代文化にどのような貢献をしてきたかを示しました。そこでは、インクルーシブデザインは支援の周辺に置かれるものではなく、デザインの中心にある創造性として扱われています。
ニューヨークのFashion Institute of Technologyでも、2025年に「Adapt/Evolve」という展示が行われ、ファッション、ジュエリー、インテリア、トイデザインなどを横断しながら、アクセシビリティとアダプティブデザインが文化や社会とどう関わるかが提示されました。関連シンポジウムでは、ファッションと障害、そしてco-designを専門とする研究者が登壇しており、ファッションの世界でも「当事者とともにつくる」ことが強く意識されているのがわかります。
さらに小売や衣服の分野でも、アダプティブウェアや着脱しやすい衣服、身体状況の違いに対応した商品が、より日常的なラインとして展開され始めています。たとえばPrimarkは2026年3月時点で、マグネットや面ファスナーなどを使ったアダプティブ衣料の特徴を公式に案内しており、「機能的であること」と「今っぽさ」は両立できるという方向へ進んでいます。
「困っている人のため」だけでは、少し足りない
私は、インクルーシブデザインを語るとき、「配慮」だけで終わらせたくありません。なぜなら、人は単に不便を解消したいだけではないからです。安心したい。自分らしくいたい。気後れせず選びたい。きれいだと思えるものを持ちたい。誰かと共有したい。そういう気持ちまで含めて、私たちの暮らしはできています。
アクセシビリティが「使えるかどうか」に関わるなら、インクルーシブデザインは「そこに居てよいと思えるか」「自分のままで選べるか」にも関わっていると思います。W3Cも、アクセシビリティ、ユーザビリティ、インクルージョンは重なりながら、より多くの人が参加できる状態を目指すものだと整理しています。
だから私は、見た目や使い心地や持ちたい気持ちを軽く扱いたくありません。「困りごとを解決するもの」は大切です。けれど同時に、「それでもなお、自分でいたい」という感覚を支えるものも、同じくらい大切だと思うのです。
アトリプシーが考える「ひとり」から「みんな」のデザイン
アトリプシーで生まれるものは、いつもどこかに具体的な背景があります。治療中の外見変化にまつわること。付き添いや通院、仕事との両立のなかで感じること。言葉になりきらない違和感や、日々の小さな不自由。そうしたものを、ただ不便として回収するのではなく、デザインを通して社会に翻訳することを大切にしています。
ある人にとって切実なものは、別の誰かにとっても、実はずっと必要だったものかもしれません。そして、そのプロダクトが一人のためだけに閉じず、ほかの人にも届いていくとき、デザインは「個人の事情」から「社会の共通言語」へ少しずつ変わっていきます。
それは、“みんな向け”に丸めることではありません。むしろ逆で、ひとりの輪郭を消さずに、その経験から社会のほうを広げていくこと。私は、その広がり方にこそ、インクルーシブデザインの面白さと希望があると感じています。
今回の展示でお披露目するもの
今回の「ささやかな身支度展+」では、スカーフや新アイテムを披露いたします。身支度にまつわるものは、生活用品であると同時に、その人の気分や尊厳にも触れるものです。毎日身につけるもの、持ち歩くもの、ふと手にするものが、ただ便利なだけでなく、少し気持ちを整えてくれるものであってほしい。そんな思いで準備を進めています。
タイトルにある「+」には、少し余白のような意味があるように感じています。拘りの「+マーク」。
身支度の先にある会話、出会い、ケア、気づき。プロダクトだけでなく、その背景にある物語や考え方も含めて、場としてひらきたいと思っています。
これからのデザインは、
正解を押しつけるのではなく、参加できる余白をつくる
世界の流れを見ていると、これからのデザインは「標準を一つ決めて、そこに合わせてもらう」発想から、少しずつ離れていくのだと思います。制度の面ではアクセシビリティ要件が進み、展示の面では障害や多様性がデザインの主題として扱われ、教育や商品開発の面では当事者との協働が重視される。
インクルーシブデザインは、誰かを特別扱いするためのものではなく、社会を硬直させていた“見えない前提”をほどいていく営みとして、確実に広がっています。
私は、その流れをとても心強く感じています。なぜなら、自分の経験や、誰かの困りごとから始まった小さなデザインも、きっと孤立した点ではないと思えるからです。いま世界のあちこちで、「一部の人の話」だと思われてきたことが、実は社会全体のデザインを更新する入り口だったのだと、言い直され始めています。
阪急うめだ本店にてアトリプシー/ART+3C出店決定!!
「ささやかな身支度展+」開催のお知らせ
誰かの困りごとや願いから生まれたプロダクトが、たくさん集まります。身支度という、ごく日常的で、ごく個人的な営みのなかにある希望や工夫を、ぜひ見にいらしてください。
会期
2026年4月29日(水祝)~5月5日(火祝)
※私は4月30日(木)の午前~15時ごろまでは別件のため店頭におりません。
それ以外は、体力が持つ限り終日いる予定です。
会場
阪急うめだ本店 10階 うめだスーク「スークパーク」
営業時間
午前10時~午後8時※最終日は午後4時まで
スカーフや新アイテムのお披露目に加えて、「ひとり」から「みんな」へひらいていくデザインについて、実際に見て、触れて、話せる機会になればうれしいです。みなさまお誘いあわせのうえ、阪急うめだ本店にてアトリプシー/ART+3C出店、ぜひお立ち寄りください。
出典一覧
Microsoft Inclusive Design
https://inclusive.microsoft.design/
インクルーシブデザインの基本的な考え方を参照。
Microsoft Inclusive Design: Tools and Guidance
https://inclusive.microsoft.design/tools-and-guidance
実践に関する補足参照先。
Microsoft Inclusive Design: Inclusive 101 Guidebook
https://inclusive.microsoft.design/articles/inclusive-101-guidebook
アクセシビリティとインクルーシブデザインの違いを補足する参考先。
W3C Web Accessibility Initiative: Accessibility, Usability, and Inclusion
https://www.w3.org/WAI/fundamentals/accessibility-usability-inclusion/
アクセシビリティ、ユーザビリティ、インクルージョンの関係を説明する際の参照元。
W3C Web Accessibility Initiative: Accessibility Fundamentals Overview
https://www.w3.org/WAI/fundamentals/
アクセシビリティの基本全体を確認する補助参照先。
European Commission: European Accessibility Act (EAA)
EUにおけるアクセシビリティ制度化の参照元。
European Commission: The EU becomes more accessible for all
https://commission.europa.eu/news-and-media/news/eu-becomes-more-accessible-all-2025-07-31_en
European Accessibility Act の運用開始後の解説記事。
V&A South Kensington: Design and Disability
https://www.vam.ac.uk/exhibitions/design-and-disability
V&Aでの展示そのものの公式ページ。検索結果では現在クローズ済み表示でした。
V&A: Design and Disability Exhibition Guide
https://www.vam.ac.uk/articles/design-and-disability-exhibition-guide
展示内容の説明に使いやすいガイドページ。
Fashion Institute of Technology: Adapt/Evolve
https://www.fitnyc.edu/life-at-fit/campus/gallery/adapt-evolve/index.php
FITの adaptive / inclusive design 展示の公式ページ。
Fashion Institute of Technology: Adapt/Evolve Symposium
https://www.fitnyc.edu/life-at-fit/campus/gallery/adapt-evolve/symposium.php
展示に付随するシンポジウムの公式ページ。
Primark: Our Adaptive Clothing Guide & Collection
https://www.primark.com/en-gb/a/inspiration/fashion-trends/adaptive-clothing-guide
アダプティブ衣料の考え方や特徴を紹介する公式ページ。
Primark: Our Adaptive Clothing, Sleepwear and Lingerie Collection
https://www.primark.com/en-us/a/inspiration/style-trends/our-adaptive-collection
アダプティブコレクションの概要と特徴の参照元。
Primark Corporate: Primark launches the UK high street’s first adaptive swimwear
2026年3月時点の adaptive range 拡張の最新事例。


