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日常がコンテンツになる時代に、見せられない痛みはどこへ行くのだろう。


「SNSにもっと力を入れたほうがいいですよ」

さつきデザイン事務所に対しても、アトリプシー/ART+3Cに対しても、「SNSをもっとやるべき」とご助言をいただくことがあります。もちろん、その通りだと思う部分もあります。活動を知ってもらうこと。必要としている人に存在や情報を届けること。共感してくださる人とつながること。今の時代にSNSが大きな役割を持っていることは、よく分かっています。


実際に、SNSによって救われる時間があることも、私はよく知っています。

たくさんの闘病者がSNSを通じて自分の経験を発信しています。私自身も闘病中、Xに投稿し、同じように治療を受けている人たちと出会いました。副作用のこと。検査の不安。家族には言いにくい気持ち。夜中にふと押し寄せる怖さ。そうしたものを投稿することで、「自分だけではない」と思えた瞬間が何度もありました。顔も知らない誰かの言葉に励まされ、私もまた誰かの投稿に反応しながら、どうにか治療を続けていた時期があります。


だから、SNSで発信することそのものを否定したいわけではありません。むしろ、SNSがあったからつながれた人たちがいて、SNSがあったから越えられた夜があったと思っています。



それでも、私の中にはずっと、SNSで発信することに対してどこか懐疑的な気持ちがあります。

それは、SNSが嫌いだからではありません。発信そのものを否定したいわけでもありません。ただ、なんでも「見せるもの」にしていくことに、少し立ち止まってしまうのです。


最近のSNSトレンドを見ていると、特別な出来事だけではなく、何気ない日常そのものがコンテンツになっていると感じます。旅行やイベント、華やかな場所だけではなく、朝の支度、学校帰り、友達との会話、買った飲み物、机の上、疲れて帰る夜。そうした生活の断片が、短い動画や写真、言葉として切り取られ、誰かの共感を呼び、広がっていきます。


TBWA HAKUHODOのソーシャルリスニング専門チーム「65dB TOKYO」は、2026年上半期にSNS上で発生した約50億件の投稿データを分析したレポートを発表しています。対象は、2026年1月1日から5月31日までのX、TikTok、Instagramの投稿です。その分析では、生活者がSNSの機能やフォーマットを使い、何気ない日常そのものを特別なコンテンツへ変えていく姿が指摘されています。


その代表例のひとつが「miniVlog」です。

数秒ずつ撮影した日常の動画をつなぎ、音楽や効果音、画角の工夫を加えて、短いVlogとして見せる投稿です。2026年5月時点で、TikTokでは約940万投稿、Instagramでは約1,060万回の投稿が確認されているとされています。内容そのものは、友達と歩く、飲み物を買う、机の上を撮る、空を映す、といった小さな場面でも、音やテンポや編集によって、その人だけの日常の記録になります。


また、1時間ごとに約2秒の動画を撮影し、自動で1本のminiVlogを生成する「Setlog」のようなアプリもあります。友達同士でグループを作り、短い動画を共有し、1日分をVlogとして書き出すことができる仕組みです。何気ない一日が、撮り方やルールによって“思い出らしいもの”に編集されていくのです。

さらに、最近のSNSでは、ただ流行のテンプレートを真似するだけではなく、自分なりの要素を少し加える「編集型ミーム」への関心が高まっていると分析されています。背景には、「個性を出したいけれど、失敗したくない」「流行には乗りたいけれど、量産型にはなりたくない」という心理があるとされています。


これも、とても今らしい感覚だと思います。

完全にひとりでゼロから表現するのは怖い。でも、誰かとまったく同じではいたくない。だから、共有されたフォーマットの中に、自分だけの小さな編集を入れる。


αZ総研による2026年上半期トレンド調査でも、TikTokで流行したセリフや音源に合わせたミーム用語が多く挙げられています。たとえば「〇〇すぎて滅」や「〇〇は避けて。〇〇はOK。〇〇ならパーフェクト。」のように、自分なりの言葉を入れて投稿できるスタイルのワードが多い傾向があると報告されています。※この調査は2026年5月1日から17日にかけて、Nom de plumeのLINE@会員239名を対象に行われたものです。


つまり、今のSNSでは、日常はただ記録されるだけではありません。少し編集され、少し演出され、少し自分らしさを足されて、コンテンツになっていきます。



私はこの「日常がコンテンツ」になる流れを、面白いと思っています。

誰でも表現できる時代になったことは、すごいことです。特別な場所に行かなくても、特別な肩書きがなくても、自分の日常を誰かに届けることができる。小さな違和感や笑い、疲れや失敗までもが、誰かの「わかる」につながることがある。でも同時に、こうも思うのです。



日常を、本当にコンテンツにすべきなのだろうか。


私は、SNSで日常を発信すること自体を否定したいわけではありません。何気ない一日を誰かと分かち合うことで、孤独がやわらぐこともあります。自分では取るに足らないと思っていた出来事が、誰かの共感や励ましになることもあります。けれど、日常が「見せるもの」になっていくことには、少し立ち止まりたい気持ちがあるのです。


まだ言葉になっていない気持ち。

誰かに見せるには近すぎる痛み。

整理できていないまま、ただ自分の中にある違和感。


そういうものまで、すぐに投稿し、意味づけし、共感される形に整えなくてもいいのではないかと思うのです。日常には、外に向かって発信される前に、自分の中でそっと持っておく時間が必要なものがあります。コンテンツになることで救われる経験もある一方で、コンテンツにした瞬間に、何か大切な気持ちが失われてしまう経験もあるのではないでしょうか。


特に、病気や治療による外見や気持ち、暮らしの変化は、簡単に「見せられる日常」にはなりません。

誰かに分かってほしい気持ちはあっても、見られることがつらい時もあります。語りたい気持ちはあっても、言葉にすると少し違ってしまうこともあります。「前向きな物語」としてまとめられるには、まだ近すぎる痛みもあります。だから私は、日常をコンテンツにする前に、その人自身が自分の感覚に触れ直す時間があってもいいと思っています。


見せるためではなく、自分に戻るために。

共感されるためではなく、自分の輪郭を確かめるために。

発信するためではなく、まだ言葉にならないものを、色や形としてそっと置いてみるために。


アトリプシー/ART+3Cが大切にしている「表現すること、装うこと、人とつながること」は、痛みをコンテンツに変えるためのものではありません。むしろ、コンテンツにしきれない日常を、その人自身の手元に取り戻すための実践なのだと思っています。


見せることで届くものがある。

でも、見せないことで守られるものもある。


その両方を知っているからこそ、私はSNSとの距離の取り方を、いつも考えてしまうのだと思います。


ピンク、紫、青のインクがにじむ抽象画。白地に丸い染みと流線が広がり、柔らかく幻想的な雰囲気。

アトリプシーは、病気や治療、副作用などによる外見や気持ち、暮らしの変化の中で、表現すること、装うこと、人とつながることを通じて、自分の輪郭を取り戻していくための実践です。ここでいう「表現」は、必ずしも自分の経験をリアルに発信することではありません。うまく説明することでも、前向きな言葉に変えることでも、面白おかしく発信することでもありません。


見せる前に、まず自分を大切に扱う。

語る前に、色や形に置いてみる。

つながる前に、自分の輪郭を確かめる。


日常がコンテンツになる時代だからこそ、コンテンツにできない日常を大切にする場が必要なのだと思います。アトリプシー/ART+3Cは、そのための小さな入口でありたいと思っています。だから、これからも広告的に、ただ露出を増やすためだけにSNSを運用するつもりはありません。


投稿数を増やすために、誰かの痛みを切り取ることはしたくありません。反応を得るために、場で生まれた言葉を急いで消費することもしたくありません。「いい話」として整えすぎて、本当はもっと複雑だった気持ちを平らにしてしまうことも避けたいと思っています。


でも、発信をしないという意味ではありません。

必要としている人に届くために。まだ言葉にならない気持ちを抱えている人が、「こういう入口もあるのか」と思えるように。企業や病院、自治体、教育機関など、アトリプシーの考え方に触れてくださる方と出会うために。私たちは、これからも発信していく必要があると思っています。


ただ、その発信は、日常や痛みをコンテンツとして消費するためのものではなく、活動の背景にある問いや、大切にしている姿勢を、時間をかけて届けるものにしたいのです。SNSを、拡散のための装置としてだけではなく、誰かがそっと入ってこられる入口として使いたい。大きな声で叫ぶより、必要な人が見つけてもらえるように。一瞬で消費される投稿ではなく、あとから読み返せる言葉として。誰かの経験を物語としてまとめすぎるのではなく、その手前にある揺らぎごと、大切に扱う発信として。



さつきデザイン事務所も、アトリプシー/ART+3Cも、SNSと距離を置きたいわけではありません。ただ、SNSの速さや便利さに合わせるのではなく、自分たちの速度で、必要な言葉を、必要な形で届けていきたい。それが、私の考えるSNSとの向き合い方です。


出典 ・TBWA HAKUHODO / 65dB TOKYO「2026年上半期SNSトレンド徹底解剖」https://www.tbwahakuhodo.co.jp/ja/news/65dbtokyo_2026_fhtrend/

・FINDERS「英語も日本語もない投稿が日本で大バズ。SNS新潮流『広がる世界交流』と『編集型ミーム』」https://finders.me/kqFQxAgmRB1YnOVNDg

・ニコラ「ティーンに話題の新SNS『setlog(セットログ)』って何?」https://nicola.jp/article/article-106758

・αZ総研「αZ世代が選ぶ2026年上半期トレンドランキング」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000116.000020799.html

・MarkeZine「買えないなら自作する・言語を超えたアレンジ欲求、2026年前半のSNSトレンドに見る最新インサイト」https://markezine.jp/article/detail/50542


さつきデザイン事務所/SATSUKI DESIGN OFFICE
(適格請求書発行事業者登録済み)

TOYONAKA-CITY, OSAKA,  JAPAN(日本)

info@satsuki.design

さつきデザイン事務所は、​大阪で企業ブランディングやパーソナルブランディングを行っているデザイン事務所です。

ブランドマネージメント・プランニング・ディレクションを行い、ウェブ制作・DTP制作などを行っています。

経営戦略をベースにブランドデザイン戦略へ落とし込んでいきますので、単なるビジュアル化ではありません。

皆様の企業価値を高めるお手伝いをしていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

また、「遊びごころを共有するためのコミュニケーションデザイン」を研究中。

​ケアとアートの領域で研究と「アトリプシー/ART+3C」実践を行っています。

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大阪 デザイン|さつきデザイン事務所
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